アート旅ブログのマチです。
ひろしま建築祭を楽しんだ翌日は無人島の愛媛県豊島(とよしま)。
瀬戸内芸術祭 秋期限定公開のゲルハルト・リヒター<14枚のガラス/豊島>を鑑賞するのが今回の旅の目的だった。
<14枚のガラス/豊島>

左:リヒター14枚のガラス 外観 周りは竹林
右:レセプション内部
右下:ピースウィンズ・ジャパン資料
ピースウィンズ・ジャパンは紛争、災害、貧困などによって危機にさらされている人を支援する団体。人道支援や復興支援などを国内外で展開している。

船を降りて竹林の中を進むとレセプションが見えてくる。
ドキドキワクワク。
リヒター作品「14枚のガラス」は10月4日~26日までの土日祝日限定の公開だった。観覧は無料。セキュリティ上の理由で、受付で身分証を提示し氏名、住所などを記入する。

無人島にアート作品が一つだけ置かれている贅沢な空間。
小高い丘から見下ろす海の景色が作品を通して見える。
14枚のガラスはハの字に少しずつ角度を変えて固定されている。
景色やその場にいる人が映り込む様子も楽しむことをリヒターは想定して設置しているようだ。

海側から作品を見ると対岸の島が二つに見えることを一緒に鑑賞していた方が発見。
なるほど、リヒターの狙い通り。

この建物を設計したのもリヒターだ。
リヒターが作品のために自身でデザインしたのは、この豊島とドイツケルンのアトリエ。
四方から自然の光が入るように作られた空間で様々な角度から作品を味わう。
至福の時。

今年93歳になったリヒターによる最後で最大のガラス立体作品を堪能することができた。
「Futility(役に立たない、無益な)に捧げる」この場にあることに価値があると改めて思う。
運営はピースピースウィンズ・ジャパンが行っている。期間限定公開なので詳細を確認してから訪ねることがオススメ。
公開に関するお問い合わせは、こちらまで。

☆アクセス
因島から高速船ニューうおしまに乗船して向かった。
広島県尾道から愛媛県上島町の離島を結ぶ唯一の交通手段。
豊島に向かう便は1日朝夕2便だけなので要注意。
交通手段についても事前のリサーチが必須。
ニューうおしま スケジュールはこちら。

右下:広島県と愛媛県の境が良くわかる地図。

リヒター作品、ケルン大聖堂のステンドグラスも鑑賞したい。叶うかなぁ。
林原美術館
さて、陸地に戻り建築物目当てで訪れた林原美術館。
この日は、「ウルトラ超絶技巧の世界」雲の旅 刀剣男士雲生とのコラボも企画されていて女子率が高かった。
マチは建築目当て、前川國男設計林原美術館。
ちょうど建築の解説ツアーも開催されていたのでガイドさんの解説を拝聴した。

前川建築の特徴は一筆書き。動線は一方通行で鑑賞者の視線の動きに合わせている。
そして、ロビーの高さから少しずつ下がりテラスに近づくと75センチの段差がうまれる。
外壁のレンガも美しいものを表側に配するように指示していたようだ。
細かい部分にもこだわりがある。

展示されている刀剣の価値には明るくないので、建築のみ鑑賞させていただき次の目的地へ。

THE RABBIT HOLE
ウサギの穴のように多元的なアートの底なし沼へ誘われて。
ライアン・ガンダー「ラビット ホール」
アートを通じた非日常的な体験への入口。

ラビットホールは岡山の起業家、石川康晴が収集した現代アート作品(石川コレクション)を公開するために今年2025年に建てられた美術館である。
入口の上にはフィリップ・パレーノの作品「Marquee」
劇場や映画館の入口に見られる庇に着想を得ている。電球やネオン管が明滅を繰り返す。
この日は昼間でその様子は見られなかったけれど。。


ヤン・ヴォー作品。
ヤン・ヴォーはベトナム戦争にボートピープルとなった出自をもつ。
デンマークの船に救助されてデンマークに住むことになった。
自身の経験、家族の歴史、社会的歴史に関するレディメイドのもの、写真、手紙などから作品が作られている。
右下:ウーゴ・ロンディノーネ「Big Mind Sky」ランドアートの彫刻。スイス出身。

マーティン・クリード 「Work No.1350 Half the air in a given space」
部屋の半分の空気を風船として可視化した作品。
風船の海にダイブして空間を体感する。誰でも童心にかえる。

左上:ヤン・ヴォー「We The People Element#D3」
自由の女神の等身大模型をつくり、解体し、散逸させた作品。アメリカの民主主義の世界への広がりを表している。
左中:リアム・ギリック「Mcnamara」
ヤング・ブリティッシュ・アーティストの一人。
右中:ジャナサン・モンク「Deflated Sculpture V」
イギリス出身の作家。既存作品の模倣や引用、見立てを用いた制作を行っている。
自身が尊敬する作家の作品を再解釈している。
今作はジェフ・クーンズの風船の金属彫刻を空気が抜けた状態に再構成している。

左上:ペーター・フィッシュリ&ダヴィット・ヴァイス「無題」
右下:アンダレア・ジッテル「A-Zカーペット」ミニマルなデザインのカーペット。実用性も兼ねている。
フィリップ・パレーノ「My Room is Another Fish Bowl」

ヘリウム入りの魚型の風船が展示空間に浮遊している。風船は気候や人の動きに反応して自由に移動する。
自然光が降り注ぐ最上階の展示スペース全体が水槽のようであり、子どもも楽しめるようになっている。

現代アートはまだ続く。近隣にある福岡醤油ギャラリーへ。
FUKUOKA SHOYU GALLERY
明治時代の醤油蔵を蘇らせたギャラリーは岡山後楽園の玄関口にあたる弓之町エリアにある。
歴史深い雰囲気を大切にして外観もリノベーションされている。
内部のギャラリースペースでは太く立派な梁なども残して使われている。

現在展示中の作品はライアン・ガンダーによるもの。
「Together, but not the same」
ガンダーは彫刻、絵画、出版物からパフォーマンス、インスタレーションまで様々な形で多元的な作品を制作している。

左上:「Magnus Opus」来場者が近づくと目がキョロキョロする作品。
左中:地下に続く階段 石積みでとても味がある。
右上:「Make everything like it’s your last」
右中:ガンダーと巨匠ピカソを重ねた作品
右下:ベルギーの「タンタンの冒険」から流用した”アクションマーク”

左上:アニメーターが使用する手足が動かせるデスクトップ人形の拡大。
左中:機械仕掛けのネズミチャン。9分間の独り言。ネズミの声はガンダーの娘が演じている。
右下:作家自身のストーリーブック98冊セット。意図的に手の届かないところに設置されている。

左上:ベルギーの「タンタンの冒険」中に登場するペインティング。
右上:スノーグローブ。永遠に降り続く雪で中身はわからない。
右下:醬油蔵の立派な梁。丁寧にリノベーションされているところも好感がもてる。
コンセプチュアルアートの良作をユニークな空間で鑑賞できる貴重な施設、現代アート好きな方にはオススメだ。
鑑賞チケットはラビットホールと福岡醬油ギャラリー共通券として販売されている。

☆茶亭「SABOE OKAAMA」
ギャラリー内の茶房。
地方から選りすぐったお茶と果物、穀物をコラボさせたものやオリジナルブレンドのお茶が取り揃えられている。
試飲して茶葉を選ぶことができる。
お茶に合わせた茶器も豊富にそろえられているので、見ているだけでも楽しい素敵な店舗。
外国人がたくさんお買い物をしていた。

岡山芸術交流2025 The Parks of Aomame
岡山芸術交流とは、3年に一度行われる国際現代美術展で岡山の街中に芸術交流の作品も点在している。(9月26日~11月24日まで)
2025はアートディレクターにフィリップ・パレーノを迎え2か月間開催される。
そのひとつ、青豆の公園。
村上春樹の小説「1Q84」に出てくるキャラクターをモチーフにしている。
日常と非日常、生物と人工、現実と仮想 境界を行ったり来たりするパラレルワールドのイメージのようだ。
旧内山下小学校の校庭に設置された巨大な塔。(フィリップ・パレーノ 「メンブラン」)
発せられる声は石田ゆり子のもの。
周りの環境によって音や光を発する。
何とも言えない雰囲気を醸しだしている。

プールにはウミガメが泳いでいる。
島袋道浩「魔法の水」
淡水魚と海水魚が共存できる好適環境水の中で飼育されている。

岡山神社の境内にも作品がある。
上:ダン・グラハム「木製格子が交差する ハーフミラー」
コンセプチュアルアート。日本にインスピレーションを得て障子を連想させる作品。
下:右奥に烏城 岡山城が見える。日本のお城はカッコイイ。

岡山県美術館 平子雄一展

徒歩圏内の岡山県立美術館へ。
展覧会は「平子雄一展」(11月9日まで)
東京では六本木のNUKAGAギャラリーで作品を見たことがあった。
独特の顔なし木の子の作品が特徴的だ。
館内い入ると一面に平子ワールドが広がっている。
右中:ロビー中央には小さな木の子がたくさん円形に密集している。
右下:「Wooden Wood」 となかいのように頭から角がはえている。

左:所狭しと食べ物も作品が並べられている。どれも丸っこくて温かみがある。
右:棚の中にもたくさんのグッズが配置されている。
平子雄一は、自然や植物と人間の共存関係に起きる疑問などをテーマに大判の絵画や立体作品を制作している。
岡山県出身で、渡英し絵画を学び、現在は東京を中心に活動をしている。
右中:展示室を超えて中庭にも作品が設置されている。猫もよく出てくるモチーフ。

今展は出身の岡山県で開催される大規模個展となっている。
美術館の広々した空間をいかした迫力のある作品を鑑賞できた。
タイミングが合えば作品をオマージュしたパフォーマンスを見ることもできる。
美術館の設計は宮崎県立美術館も設計している岡田新一。
具象と抽象を融合させた設計で、この地域にある岡山城の屋根に呼応して作られている。


アートっていいなぁ。今日も心豊かに。
