アート旅ブログのマチです。
松本にある 康花美術館で観た作品に感動し、康花さんが影響された画家としてキャプションに書かれていたアンドリュー・ワイエスの名前が忘れられなかった。
いつか観たいと思っていたのが、5年前。
ようやく作品を鑑賞することができる。
ワクワクしながら上野の森を抜けて東京都美術館へ向かいました。
東京都美術館


前庭の立体作品も素敵。

井上武吉作品。

建築設計はモダニズム建築の巨匠、前川國男。
重厚でいて細部にも気を配るセンスが感じられます。
幾何学模様の床、同心円の照明器具が並ぶ様子が好きです。

アンドリュー・ワイエス展 Boundaries or Windows
アンドリュー・ワイエスは1917年アメリカペンシルベニア州チャッズフォードの生まれ。
姉3人、兄1人の末っ子で、小さい頃は病弱で学校も途中までしか通えず家庭教師から読み書きを習い、家の周りの動植物を観察して過ごしていました。
画家だった父から手ほどきを受けて、水彩画を描き始めます。
義兄からはテンペラ画法を習い、個展も開くようになりました。
本格的に画業をスタートさせます。

《第1章》ワイエスという画家
最初に目を惹く作品が「自画像」テンペラ ナショナル・アカデミー・オブ・デザイン、NY所蔵
28歳の時に父が自動車事故で突然亡くなり、この頃に描いた数少ない自画像がとても印象的な作品で今展に出品されています。
撮影はできなかったので、脳裏に焼き付けてきました。
画家としてこれから、自分のスタイルを確立して描いていくという覚悟、強い意志を感じされる作品です。
静かな画面に決意を示すようなまざしと腕に抱えたスケッチブックに心情が表れているように思いました。
「火打ち石」テンペラ
ゆるがない自分を石にみたたて描いています。
《第2章》光と影
ワイエスの写実表現によって描かれる光と影。
単なる明暗の対比ということを超えて「内と外」「生と死」「不在の気配」を描き込んでいるように感じます。
「松ぼっくり男爵」1976年 テンペラ 福島県立美術館所蔵
枯葉が積もる大地に置かれたドイツ軍の鉄かぶとにあふれそうに松ぼっくりが入っている様子が描かれています。
鉄かぶとは第一次世界大戦に従軍した隣人カールが持ち帰り、妻のアンナが松ぼっくりを入れておく容器として使っていたものです。
死が生をかかえるコントラストが主題のようです。
卵の黄身で顔料を溶かして描くテンペラの手法が使われることで、乾いた質感と繊細なタッチが表現されています。
松並木に落ちる木漏れ日も美しい作品です。
《第3章》ニューイングランドの家ーオルソン・ハウス
オルソン・ハウス。
オルソン・ハウスとは、メイン州の海を臨む丘の上に建つ古い木造家屋。
ワイエスはここで暮らしていた進行性の病気で脚が不自由なクリスティーナ・オルソンに出会い家の2階をアトリエに借りて多くの作品を制作しました。
クリスティーナ・オルソンは車いすを使わず自立して生きる強い精神をもつ女性でした。
彼女の生き方と歴史を感じさせる家のたたずまいに魅了されて、ワイエスはこの地で制作に励みました。
「クリスティーナ・オルソン」1947年 テンペラ マイクロ・クニン・コレクション、ミネアポリス
この作品は今展覧会のメインビジュアル。

オルソン・ハウスの入口に座る横顔のクリスティーナ・オルソンが描かれています。
寂し気だけれど、意志の強い内面が表情に表れている気がします。
家の中と外をつなぐ境界に座り何を思っているのか、何かを待っているのか、鑑賞者が想像する作品です。
《第4章》まなざしのひろがり
「たる木」水彩

「モデルの椅子」
アン・コールという女性がモデルで、彼女が休憩した椅子と服だけが描かれています。
なぜか傍らには卵が。
右側から入り込む光によって輝く白いシャツがモデルの存在感をより強くしているように感じます。

「ハイ・スツール」
チャッズ・フォードにあるワイエスのスタジオの一角。
パレットとスツールに光が当たり、画家の姿を想像します。
人物の不在をものによって表現する作品群。
日本人の感性に迫ってくる由縁かもしれない。

「灯台」テンペラ画
メイン州サザン・アイランドというワイエスが所有していた小さな島にある灯台を描いています。
手前には飼っていた愛犬が見張りをするように座っています。
階段を登った先がどのようになっているのか想像を掻き立てられます。

「ぼろ袋」

「花びら」水彩
チャッズ・フォードにある自宅の母屋を描いています。
屋根裏の窓が開かれていて、主の生活を感じさせます。
そよ風で花びらが散っている様子にも情緒を感じます。

「納屋の猫たち」水彩
隣人のカール・カーナーの家の納屋。
カールの妻アンナが納屋からでている姿が見えます。
鼠退治のために飼われていた猫、その姿は見えないけれど餌バチがあることで存在を示しています。
光と影の描写も秀逸。

「ノックス・グレンジ」水彩
ワイエス作品の独特な細密で乾いた描写は乾燥顔料とドライブラシという手法からきている。

今展覧会のテーマである境界、窓やドアはあちらとこちらを分断するものではなく、むしろつなぐものとして描いていたのかもしれません。

《第5章》境界あるいは窓
「氷塊Ⅰ」
クリスティーナ・オルソンが亡くなって喪失感をかかえるワイエス。
その翌年冬の寒さが厳しい中、粉ひき小屋への水路が凍りついていたことで描かれた作品です。
氷と枯葉がモチーフになっています。

「薄氷」テンペラ
凍りついた水路を真上からの視点で描いています。
薄い氷が氷の上の世界と枯葉の沈む底の世界の境になっているようです。
わずかに見える気泡が生命が感じされます。


「ヒトデ」
奥さんのベッティが双眼鏡で海の彼方を眺めている。
窓越しに妻を見つめるまなざしは優しいのだろうなぁ。

「オルソン家の終焉」テンペラ 1969年
1967年に弟のアルヴァロが翌年にクリスティーナが亡くなり、無人になったオルソン家は事実上の終わりを迎えました。
ワイエスは二人がいなくなった無人の家を訪れて今作を描きました。
主を失って静まり返った家の様子が今までの歴史を想像させます。
ワイエスは30年あまりこの家に住み創作活動に打ち込んだことを回想しているのかもしれないと感じました。
2階のワイエスが借りていたアトリエから見た風景。
今展の思いでの一作として、ポストカード買いました。



美術館という空間にある椅子が好き。
前川國男のお眼鏡にかなったインテリア。

基本情報

展覧会は2026年7月5日に終了しました。
まとめ
「クリスティーナ・オルソン」など代表作の習作を丸沼芸術の森が所蔵していることがとても貴重。
ワイエスが試行錯誤した様子が伝わる資料です。
ワイエスはモデルの審美的容貌よりその人間性に深く興味をもって作品を制作していました。
ただ写実に描く超絶技巧の作品というのではなく、見る人を惹きつける奥深さが魅力となっているように思います。
見るたびに様々なことを想像させる作品が秀逸。
MOMA所蔵の「クリスティーナの世界」も是非鑑賞したいです。
ニューヨークに行かれるか?
今後の展覧会に期待します。
アートっていいなぁ。今日も心豊かに。

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